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4月, 2019の投稿を表示しています

数学教育について

聞くところによれば、関数型プログラミング言語の流行とともに数学の圏論がブームだそうで。圏の概念が他の数学の分野を全く知らない人でも意味が分かるのか疑問を持っています。その理由は後で述べます。 私の手許に故Serge Lang博士の名著"Algebra"があります。この本は理由があって、何と大昔の1974年の初版第6刷です。非常に貧しい学生だった私に恩師が2冊持っているからと言って1冊を下さり、私の生涯の宝物です。 仮に数学を代数学、幾何学、解析学という全く意味が無い区分けをしたとします。意味が無いと言うのは、例えば多様体論なんかはどの分野にも入るからです。そうであっても無理に区分けしたとしましょう。この3分野のうちでも、代数学(厳密に言えば抽象代数学です)が、勉強するだけなら(あくまで勉強するだけですよ、研究となれば別の話です)数学的予備知識も数学的センス(故小平邦彦博士の言うところの"数覚"、位相群で有名だった故George W. Mackey博士の言うところの"数学的成熟度"、まぁ簡単に言えば数学的才能ですね)も全く必要としません。必要なのは論理を追うための忍耐力と言えます。ですから、理解出来るか否かは別にして、代数構造を"言葉"として吸収することは誰にでも出来ます。数学のどの分野を専攻してもLang博士の"Algebra"程度の知識は"言葉"として知っていなければ話にならないのです。数学での代数学は、私達が日本語や英語等でコミュニケーションするのと同じく、数学の言語なのです。 Lang博士の"Algebra"には、第1章群論の第7節に早くも"圏と関手"が登場します(ページで言えば25ページ目です)。ついでながら、この圏、関手という日本語は全く元の英語が想像出来ないので、以降カテゴリ、ファンクタと書きます。 ところで、Lang博士はブルバキにも入っていた人ですから、こういう抽象度が高い概念を重要視しているかと思いきや、決してそうではないのですね。元々カテゴリ、ファンクタ(ファンクタの方が重要な概念でして、カテゴリはファンクタが扱う対象物です)は、ホモロジー代数の一部として提案された概念です。ホモ...

マイケル・アティーヤ卿への最近のインタヴュー

先ずいきなりですが、John L. Kelleyの有名な本 General Topology の序文の一番先頭の段落を以下に抜粋します。 "This book is a systematic exposition of the part of general topology which has proven useful in several branches of mathematics. It is especially intended as background for modern analysis, and I have, with difficulty, been prevented by my friends from labeling it: What Every Young Analyst Should Know." 私は学生時代にこの General Topology を熟読して位相空間を学んだものでした。私のみならず友人共も皆そうでした。英文も非常に易しく(と言うか、数学書の欧文はどれも一般的に易しいのです。しかし、数学エッセイとなると話は別です)、数学的内容はともかくも、はっきり言えば中学生でも読めます(とは言っても数学書でよく出て来る"so that"と"such that"の違いや iff くらいは教えてあげないと駄目でしょうが)。しかし、この本すら和訳本がかってあったと友人共の一人から聞いて非常に驚きました。そして、その友人はその和訳本を持って来て私に「初っ端の序文の最初の段落で誤訳がある有名な本だ」と言って笑いながら私に見せてくれました。その和訳本の序文の最初の段落(上記の英文に対応します)を以下に抜粋します。 「本書は、数学の幾多の分野において重要性を認められた位相空間論の系統的な記述である。特に近代解析学への背景となるべく意図されたものである。私の友人達も解析学の若い研究者の誰もが知るべきことを示そうという私の意図を妨げ得なかった。」 英文と和訳を見比べておかしいと思わなかった人ははっきり言って英語力零と言っても過言じゃありません。英文で言えば2番目の文章の2番目の文節が和訳と正反対の内容だと気が付きませんか? 先ず"with difficu...