Jordan標準形については前に“ 決して構築されることのなかった最も重要なマシーン ”の前置きの中で、簡単のため3次正方行列に限ってJordan標準形の求め方を少しばかり解説しました。その解説の中で私が何回も誰もが理解しているはずの事柄に「(何故か?)」と理由付けを問いました。それは皆さんに少しでも自分の頭で考えて欲しかったからです。ところが、友人共の話によれば、その解説を読んだ学生達が自分の頭で真剣に考えようともせず、代わる代わる同じような質問をして来たようです。特に、その時期に線型代数の講座を担当した友人は私の解説のことを知らず、私の「(何故か?)」の趣旨も知らなかったので、何回も同じような質問を受け「おかしいな」と思いながらも最初のうちは丁寧に教えましたが、余りにも頻繁なので完全におかしいと悟ったようです。そして私の「(何故か?)」の趣旨を知り、学生達に舐められたと思って切れたのかどうかは知りませんが、定期考査(中間なのか期末なのか知りません)で出題した問題の一つが以下の問題です。私の解説では3次正方行列でしたが、友人は最初何人かの学生達に3次正方行列の場合において丁寧に説明してしまったこともあって、不公平にならないように一般のn次正方行列にしたようです。と言うか、3次でもn次でも本質的に同じですから、最初に3次の場合に教えた学生達が本当に理解しているのかどうか試したかったのかも知れません。 (問題) n次(n≧2)正方行列𝑨の固有値を𝛼、rank(𝑨-𝛼𝑬)=n-1とする時、(𝑨-𝛼𝑬) n-1 𝒙≠𝟬となるような𝒙が存在することを示せ。 正直言って、文系なら兎も角も、理系でこれに解答出来ない学生がいるとは思えないのですが、初学者のために解答例を以下に載せておきます。 (解答例) n次元線型空間を V とする。(𝑨-𝛼𝑬)が V から V への線型変換であるからImg(𝑨-𝛼𝑬)⊂ V である。 V から始めてImg(𝑨-𝛼𝑬) n-2 まで、次元定理を適用すると以下の等式が得られる。dim V =rank(𝑨-𝛼𝑬)+dim Ker(𝑨-𝛼𝑬)、rank(𝑨-𝛼𝑬)=rank(𝑨-𝛼𝑬) 2 +dim Ker(𝑨-𝛼𝑬) 2 、rank(𝑨-𝛼𝑬) 2 =r...